鋳物の町、高岡の手仕事が生んだ真鍮の小さなお守り
静かな山の中にいると、心が穏やかになる一方で、ふとした瞬間に「何か」が潜んでいるような不安に襲われることがあります。
誰もいない山道を歩いているとき、突然茂みが揺れたり、風とは違う気配を感じたりすると、つい足が止まってしまいます。僕自身、そんな経験を何度もしてきました。それでも大きな熊鈴をぶら下げて常にチリンチリンと音を鳴らすことには抵抗があり、ついつい鈴を家に置き去りにしてしまうことがありました。
不安を感じるときは、トレッキングポールを「カツン、カツン」と叩き合わせて音を出したりしますが、やはり限界があります。
そんな体験から生まれたのが、この『min.bell』です。
まるでお守りのようなコンパクトなサイズで、持ち運びも苦になりません。さらに特別にこだわったのは、その音色です。軽く揺れるだけで響く透き通った鈴の音は、山の静けさを邪魔することなく、自然の空気に優しく溶け込みます。
不安な静寂に包まれた時にも、『min.bell』の澄んだ音が心地よく響き渡り、自分の存在をさりげなく知らせてくれます。使わない時は静かにポケットにしまっておける、控えめなデザインに仕上げました。
もちろん、『min.bell』を持ったからといって熊との遭遇を完全に防げるわけではありません。科学的には熊鈴の効果について議論があり、効果が絶対的とは言い切れないことも事実です。鈴の音に熊が気づいて回避した事例がある一方で、確実に遭遇を避けられる保証はありません。
しかし僕は、熊鈴は不意の遭遇を少しでも防ぐための「心の支え」だと思っています。完璧を求めるなら、声を出す、複数人で行動する、大きな音を意図的に出すなど、他の対策も併せて行うことが効果的です。
熊鈴の最も効果的な使い方は、「何もしないよりずっと良い」という気持ちで携帯することだと思います。
Design
「いつか、ベルを作りたいと思っていた」
山を歩くたび、心のどこかでずっとベルを作りたいと思っていた。
その思いが、2022年8月にふと再び浮かび上がった。 「もしかしたら、今がそのタイミングかもしれない」。そう感じて、思い切って富山県高岡市の能作さんにダメ元で連絡を取ったのが始まりだった。
能作さんは鋳物の老舗。ダメ元で連絡をしたにも関わらず、温かく話を聞いてくださった。打ち合わせを重ねる中で、能作さんが得意とする「生型鋳造(生砂型鋳造)」では、僕がイメージするベルを完全に再現することが難しいことがわかった。
それでも、諦めるのではなく、「この製法でできる最良の形」を目指すことにした。複雑なかたちを追い求めるのではなく、この製法だからこそできるシンプルな美しさを追求する。そう決めてから、何度も何度もやり取りを交わした。
そして手元に届いたのは、3Dプリンタで作られた実寸のサンプルだった。
まだ音は鳴らない形だけのサンプルだったが、その佇まいは美しく、僕の心を捉えるのに十分だった。何より嬉しかったのは、能作さん自身がこのベルの完成形を自信をもって語ってくださったことだ。その瞬間に迷いは消えた。「この方にお任せしよう」。直感に過ぎなかったが、不安はなかった。
ベルのデザインはシンプルで控えめな、わずかに裾が広がった円錐形。一見すると無機質なほどシンプルだが、その背後には試行錯誤の積み重ねがあった。手に取った瞬間、思わず「きれいだな」と小さく呟いてしまった。
山の静けさに溶け込みながらも、しっかりと存在感を放つ澄んだ音色。
こうしてできあがったベルが、あなたと共に山を歩き、不安を軽やかな音色に変えてくれることを願っています。
◾️Material
【真鍮】
真鍮は銅と亜鉛の合金です。その歴史は紀元前1,000年頃からと古く、ローマ帝国では通貨の材料に用いられ、奈良時代の日本では中国伝来の真鍮製品が正倉院に納められました。現在、もっとも身近な真鍮品には5円硬貨があり、インテリアや建築金物の他、澄んだ音色から仏具や楽器としても親しまれています。能作では、すべての真鍮製品を職人の手仕事でつくっており、仕上げによってさまざまな表情を持たせています。
◾️Color
※商品のカラーについて
製品画像はできる限り実物の色に近づけるよう努めておりますが、閲覧環境やモニター設定により、実際の色合いと異なる場合がございます。
また、質感や光沢感も画面上で完全に再現することは難しい点、あらかじめご了承ください。
2024年まで、『min.bell』は真鍮の他に「Black」と「silver」というカラーも展開していました。
BlackとSilverは、完成した真鍮のベルの表面にメッキを施したものです。見た目のバリエーションを増やすことで、選ぶ楽しさを提供したかったのですが、メッキ加工を行うことでベル本来の音色がわずかに変化することに気づきました。
一方で、真鍮そのもののmin.bellの音色は、透き通るように澄んでおり、心地よく響きます。表面加工を施さないシンプルな仕上げが、このベルの魅力を最大限に引き出していると感じました。
デザインや色のバリエーションを楽しむことは大切ですが、『min.bell』の本質は「シンプルな佇まい」と「音色」にあると再認識しました。
熟慮の結果、2025年からはメッキ加工を中止し、「真鍮そのまま」の状態での販売を続けることに決定しました。
素材そのものの美しさを存分に感じていただきたいと思います。音色に込めた想いを、純粋にお届けしたいです。
そのような思いが込められた決断です。
※真鍮そのままのカラーです。真鍮は使用過程において黒ずみが発生してきます。それが真鍮の特徴ではありますが、気になる場合は専用クロスなどで定期的に磨いてください。
※三角カン部分は磨かない様にしてください。メッキ塗装が剥がれる恐れがございます。
三角カン部分は使用過程で色落ちして行く場合があります。あらかじめご了承ください。
◾️Tone
『min.bell』の音色です。是非動画を再生して聴いてください。
※動画内、持ち手部分は2024年に販売しておりました紐付きの仕様となっておりますが音色に変更はございません。
※一点一転手作りの為、音の高さ、低さ、大きさに若干の個体差がございます。
予めご了承くださいませ。
※音色の高さ、響き方には若干の個体差がございます。あらかじめご了承くださいませ。
◾️Size Guide
Bic Miniライターとの比較です。
Sビナが付属します。
Nite Ize S-Binner Clear #0 Smokeが1つ付属します。
◾️Package
『min.bell』専用の小箱に入れてお届けします。
上画像赤丸のような穴に取り付けてご使用ください。
◾️鋳物の町富山県高岡市
富山県の北西部に位置する高岡市は、人口約17万を擁する県第2の都市。慶長14年(1609年)、加賀藩2代藩主・前田利長が高岡城を築き、その城下町として開いたのがはじまりです。開町から2年後の慶長16年(1611年)、利長は産業を振興させるべく、近郷から7人の鋳物師(いもじ)を招き、金屋町に鋳物工場を設けました。当初は、鍋・釜などの日用品や鋤・鍬などの農具をつくっていましたが、時代のニーズに合わせて多様な製品をつくるようになり、いつしか高岡は鋳物のまちとして知られるようになります。
400余年が経ったいまも、高岡は鋳物生産において国内トップシェアを誇り、仏具や茶道具といった小型のものから、銅像や梵鐘といった大型のものまで、幅広い製品をつくりつづけています。近年では、先人たちが培った技術と現代の感性が融合した、デザイン性の高い工芸品を次々と発表し、国内外から大きな注目を集めるようになりました。まさに高岡は伝統と革新が共存するものづくり都市といえ、そのような環境に能作は育まれてきたのです。
◾️min.bell生産工程
『min.bell』は生型鋳造(ちゅうぞう)という方法で作られています。
少量の水分と粘土を混ぜた鋳物砂を原型の周りに押し固めて鋳型をつくる鋳造法です。鋳型を焼成・薬品処理しないため、砂の再利用が容易で、環境にやさしい製造法です。
鋳造には、生型鋳造、金属型鋳造、ダイカスト、ロストワックス鋳造などの異なる方法や技術があります。
1.まずは上半分の鋳型を製作します。製品と同じ形状の原型をつくり、金枠を載せて砂が逃げないようにします。
2.原型の周りに砂を敷き詰め、押し固めていきます。
3.ひっくり返してエアガンで余計な砂を払います。これで半分が完成です。
4.下半分の金枠を載せて原型の周りに砂を敷き詰め、押し固めていきます。
5.ゆっくりと丁寧に上半分を取り外します。
6.原型が現れました。
7.ゆっくりと丁寧に慎重に原型を取り外します。ここで砂が崩れてしまうと鋳型として使用できないのでやり直しとなってしまいます。
上半分と下半分の金型を再度合わせ、これで8個が生産できる鋳型が完成します。
例えば80個の『min.bell』を作るにはこの鋳型が10個必要になります。
8.溶かした金属を鋳型に流し込みます。
溶けた金属は1200℃程あります。
9.金属がある程度冷めたところで鋳型を崩します。崩した生型の砂は綺麗に精製して再利用されます。
10.砂を払い固まった真鍮が現れました。プラモデルのパーツのようです。
これを一つ一つ切り分け削り作業に移ります。
11.NC旋盤を使用して削っていきます。
12.NC旋盤では出来ない細かい削り作業は一つ一つ人の手で行います。
これである程度完成しました。この後に組み立てや「White Silver」と「Black Nickel」に関してはメッキ塗装を施します。
このように生型鋳造による製品にはたくさんの、職人の高度な技術が必要な工程を経て生まれています。
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